FC会報誌「C.K.Press」(1997年~)に掲載したものを、 月に1度連載します。(画像が不鮮明ですが何卒ご容赦下さい)昔々第14回
ALBATROSSは順調に演奏活動、録音。ところがなぜか解散。人生上手く行かないですね。でも素敵な出会いがあった前回に引き続き、素敵な再会もあったようです。うまく行ったり、行かなかったり。いろんな経験したチャックさんです。
充実、録音、解散、路頭?!
ま、そんなことも功を奏してか外国人観光客にはなかなか人気があったようでありまして、とは言ってもお店に通ってくれてもせいぜい2~3日。人気が定着するには至る訳もなく、それが悩みの種と言うことに気が付いたのであります。この場で名をあげる何てぇことは無理じゃござんせんか?じゃ、何のために箱根になんか閉じこもっているんで?都会にいりゃぁいいんじゃないっすかい?「犬も歩けば棒に当たる」ってぇ言うじゃござんせんか。人の多い都会の方が何かにぶつかる可能性が高いんじゃござんせんかねぇ。そう自問自答したチャックさんは「そうだな。またしてもレコードは失敗のようだし、最初に箱根に来た時の気持ち、つまり初心に還り合宿の気持ちで今を過ごそう」と思ったそうな。いやいや、誤解なさらぬな。今流の「今さえ、自分さえ」というものではなく、ここでしっかりと音楽を確立していこうと思ったのでございました。
そこで何をするのか?!もちろん曲作り。それから録音をすると言うことを重きにおいたのであります。なぜ録音かというと、まぁ、好きだったことは好きなのですが、さておき、箱根は今回の仕事が最後になりそうだったのです。時代の波で外国人観光客も減り、出演している「ナイト・サロン」もバンドを入れなくなってしまうということになったようで、ALBATROSSと言えば箱根以外で仕事をするという「つて」もなく、レコードの話も途絶えている状態だったため、自然消滅になるしかなかったのでありました。そこで、これからの宣材にもなるし、ALBATROSSの記念品を作るという気持ちが一致し、オリジナル曲26曲を録音したのでした。残念なことに参加したメンバーは、マイナス一人の3人だったので、足りない分は重ね録音になったそうであります。「何故3人しか参加しなかったのか?いやいやこれはちょっとお話ししにくい部分でもありまして、何というか若かったというか、価値観の違いというか…ま、いいじゃないっすか。」とのこと。気になる方は今度チャックさんを捕まえて訊いてください。とにかく、このオリジナル作品を眠らせてはいけない!絶対に発表する機会をつかまなければいけない!気持ちばかりが先行して行動が出来なかったチャックさんだったのでありました。音楽は充実してきた。だが発表の場やレコードの話は無く、解散し路頭に迷うのか!なんか逆行していません?!
自信、迷い…、時代は変わる
それでもチャックさん、鈴木登さん、鈴木達哉さんの3人は楽しく録音を続けたのでございます。このときチャックさんと登さんは25歳。達哉さんは20歳でありました。全てが英語のオリジナル曲でしたがチャックさん自身、今聴いても若いながらなかなかの出来栄えと感心してみたり、楽しさが蘇ってくるそうであります。そのオリジナルの中には後の”It’s Like The Beatles”で発表することができた曲もあるのですが、今後のライブなどで少しずつ公表してくれるそうです。楽しみですね。
オリジナルの録音と並行してその時代のヒット曲なども録音に残したそうで、若い方には記憶どころか、そのとき生れていない方もいるでしょうから分からないでしょうが、因みにポール・マッカートニーは”Wings”の時代で、“My Love”や「あの娘におせっかい」がヒットして、日本ではダニエル・ブーンの”Beautiful Sunday”や「およげたいやきくん」がヒットした時代でした。ビートルズが解散して5~6年経ち、音楽界はリーダーを失い、ジャンルというものが溢れ出て、好き勝手に音楽を道具に立ち回る輩が増えてきた時でもありました。そんなとき日本ではフォークから発展したニュー・ミュージックがイニシアティブをとり、ま、日本も少々レベルが上がってきた時代といえるでしょう。
そこでチャックさんはどうするか?!つまり、まだまだ英語の歌詞にこだわり、日本の音楽界に殴り込みをかけるのか! さすがに迷っていたようであります。迷っているうちにホテルの契約も満了し、ALBATROSSもむりやり解散と言うことになりました。何となくですが、このALBATROSSというバンドは、「箱根だけ」という、よくわからない約束で行動していたようで、一人一人が「箱根が終わったら解散」は決まり事だと思い込んでいたようでありました。後日談ですが、「あの時なんで解散したんだ?解散すること無かったんだよね?」とみんなが口にしたそうであります。こりゃホントにもったいなかった。
解散後、メンバーの登さんと達哉さんは別々ですが新たなバンドに参加したのでありました。
そんな場所を見つけることのできないチャックさんは、1年ぶりに来日することになる「ヒューズ・コーポレーション」というソウル・コーラス・グループのツアーに再びついていくことにしたのでした。
嬉しい出会いとボランティア
その「ヒューズ・コーポレーション」を誰に頼まれると言うことも無く、チャックさんは空港へ迎えに行ったのでありました。「誰に頼まれると言うことも無く…」という意味は、今回の来日に際してはアルバイトとして雇われていなかったからであります。だが、チャックさんはALBATROSSも解散してしまって、次に何をやるかも決まってなく、つまり暇していたようでありますな。てなことで1年前に関わった「ヒューズ・コーポレーション」が再来日するってんで迎えにあがったてぇわけだそうであります。でも「カール、セント、クレアー、それにアンは僕のこと覚えているかな」と不安も少々だったそうな。
さてさて、飛行機が到着し出口で待っていると、来た、来た、来た。「う~む、メンバーはみんな元気そうだな。あれっ!?バックのメンバーが変わったみたいだなぁ。あぁ、でもエリックはいるわ」とぼんやりと関係者に挨拶をしている連中を見ていたらカールと目が合ったそうであります。するとカールはそこを離れチャックさんのそばへ、そこで起きたことは・・・ なんと、無言でチャックさんに抱きついたそうであります。この時のチャックさんの気持ちはとても言い表すことが出来ないくらいの喜びだったそうであります。いいな。すっごく良い経験してるなー。ね、そう思いません?
そして、その感激の味わいを壊すように‘Hey!Chuck,what’s goin’ on?’と大きな声。エリックでした。彼はバック・バンドの中では一人顔なじみでした。エリックはまずチャックさんにベースを弾き続けているかということを尋ねたそうであります。「もちろん」と答えると嬉しそうな顔をしていたそうな。これもまた良い再会ですね。うらやましーっ!こんな良い再会が出来たのだからと、暇をいいことにチャックさんはツアーの手伝いをすることに決めたのでありました。ボランティアとはいえ、やることあって良かったっすね。
プロダクションの社長も最初は「コリャ便利だ」とでも思ったのでしょうか、バック・バンドをホテルに連れて行くことをチャックさんに頼んだのでありました。チャックさんもそこは手慣れたもので、ホテルに連れて行き、注意事項と翌日の予定をメンバーに伝え、リーダーは誰かと訊ねるとエリックが「俺だよ。」と威張ったように胸を張っていたそうです。そこでチャックさんは「え?お前が?お笑いだな」な~んてからかったそうですよ。早速1年前の仲の良い友達に戻ったかのようにジョークを飛ばしあったそうであります。
さて、今回のツアーは大きな会場は無く、米軍キャンプ、ディナー・ショー、大きなディスコなどで主なライブが行われ、チャックさんはバック・バンドの話し相手になったり、「ギターの弦が切れた」などと言っちゃぁ電話をしてくるもんで面倒を見たり、また、過去にはビートルズが泊まった「赤坂ヒルトン」(現・キャピトル東急ホテル)に宿泊していた「ヒューズ・コーポレーション」を訪ね、仕事の打ち合わせや親交を深めていたのであります。チャックさんも嬉しい出会いもあり、ヒューズのメンバーから英語の上達も褒められ絶好調でボランティアに励んでいたのでありました。
困った驚きと嬉しい驚き
絶好調で我が物顔で大暴れ。メンバーやバック・バンドとも信頼関係が深まり、もちろん1年前と同様にバッグを預かるのはチャックさんだけで、楽しくボランティア活動をしていたのでありました。
そして、日程もだいぶ順調にこなして、ある日新宿の「1,000人ディスコ」という大きなライブを控えて、現場で動き回っていたチャックさんにプロダクションの社長が一言小言。「何でお前は雇ってもいないのに毎日うろちょろしてんだ!」と来たもんだ。あ~らびっくりチャックさん。そりゃあ驚きますわな。最初はタダで雇っているがごとく用を言いつけたり、便利に使っていたというのに、なんで今になってまた。はは~ん、これはやきもちかな?確かに社長を差し置いて、一番信頼されていたのはチャックさん。社長も大人気ないね、まったく。その上「ツアーに付いて来る事はいいから、俺に言われたことだけやってろ。あんまり勝手に行動するんじゃねぇ!」。でも、これにはチャックさんかなりショックだったようで、「確かに僕はオフィシャルじゃないんだよな」と思いショボン。動きを止めることにしたのでした。一人脱落みたいな状況に事情を知らない他のスタッフは「あれ?どうしたの?」ってったってねぇ。「手伝いたいし、社長はおかんむりだし、参ったなぁ」と思っていたら人一倍デリカシーのあるカールとすれ違い、「あれ?チャック、どうしたの?元気ないね」「いや、まぁ。」「何かあったのか?」「うん、実は…」とカールに説明。黙って聞いていたカールは「よしわかった。」と言ったら通りがかりのスタッフに社長を呼ぶように言ったそうで。
間もなく社長が登場し、そこで社長とカールの会話が始まったそうでして、中身はこうである。カール「動き回るなとチャックに言ったそうだが?」。社長「そう、実際雇っているわけじゃないし」。カール「チャックはどれだけみんなの助けになってると思うんだ」。社長「それはわかっている」。カール「じゃ、何故そんなことを言うんだ」。社長「‥‥」。カール「いいか、マイク(社長のこと)。よく聞くんだ。チャックのやることに一切口出しするな。チャックは僕と一心同体だ。チャックがやることは僕がやることと思え!」。結構強い口調で話していたので横にいたチャックさんもちょっとたじろいだそうですが、「チャックと僕は一心同体だ」(’He is my buddy)という言葉には驚いたそうであります。そんなに自分のことを思ってくれているなんて驚きと感激で体が震えたそうであります。お陰様で社長には悪いんですが、これからというものは思いっきり飛び回ったそうであります。
さぁ、これからもう少しツアーが続きます。そして「ヒューズ・コーポレーション」との信頼関係も深まっていきます。もう少しこのお話がしたいそうなので、次回もこの続きからー!おっ楽しみに~。