【連載16】チャック近藤の昔々

FC会報誌「C.K.Press」(1997年~)に掲載したものを、 月に1度連載します。(画像が不鮮明ですが何卒ご容赦下さい)

昔々第16回

そんなことで漁師になんかなっちゃったチャックさん。そこでも力を発揮したとか、しないとか?とにかく今回ももう少し九十九里の話でも聞いてみましょうか。

こき使われて、インチキして

前回も少々お話しをしましたが、この漁師という仕事も大変なようで。何と言ってもこちらは「網元」にお世話になったもので、朝一から午前中は地引網を、その地引網に掛かった魚の処理など。これがまた大変で、何でも夏と言うこともあり鰯はすぐに傷んでしまうので、回収後すぐに腹を開いて内臓は捨ててしまうそうであります。フムフム。その内臓は裏の…と言うか海辺近くの空き地に埋めに行くのだそうですが、(そう言えばその空き地のすぐそばに、あの有名な高村光太郎の『智恵子抄』の石碑があって、学生などがよく拓本を作成に来ていたっけ)それがすぐに腐敗してしまい、もの凄く悪臭がするそうであります。嗅ぎたくな~い。チャックさんもその処分する仕事は苦手で、何度やっても戻してしまいそうになったとか。うわ~!

さて、お昼と言うと殆ど毎日がお魚料理。金曜日だったか、週に一度だけ「カレーの日」が有ったそうであります。きっとご馳走に見えたことでしょうね。

そのお昼の悲惨な、驚くべき光景をあなたは信じるでしょうか?昼食は交代制でいつでも立食。で、食事中ずーっと網元の娘さんが(とは言っても結構いい歳ですでに所帯持ち)見張っているのだそうで、んで何で見張っているかと言うと、食事が終わった者をすぐに仕事に就かせるためなのだそうです。最後の一口が口に入った瞬間に名前を呼ばれ、口に頬張りながら走って売店へ、といった感じなのだそうでした。人使い荒いねー。

午後からは「海の家」ばりで、カップルやファミリーがゴチャゴチャに。そんでチャックさんは「カキ氷」なんぞを作ったり売店の管理をし、いつしか「売店主任」と呼ばれるようになったとか…。それを良いことに売店にドカンを居座り、わざとタバコの棚を崩して落とし、「あ、いけねー」とかいいながら、インチキして落ちたタバコの一つをポケットへ。なにがポケットに入るのかお楽しみってもんだったそうな。当時愛飲していた「ラーク」なんてぇタバコは近所に売って無く、この時期「落ちたタバコに聞いてくれ」とばかりに雑飲だったそうであります。でも煙草銭は掛からなかったんでしょ?儲かったじゃないですか。おっと、そんなことを言ってはいけませんね。

人は見かけによりません、ですよ。

さて午後になってお客さんも海に行ってしまいますとちょいと暇になり、アルバイトの連中とキャッチ・ボールなんかを楽しむ時間もあったそうであります。

そんなある時、九十九里界隈では有名な腕相撲がやたら強い人とお手合わせを願ったりして遊んでおりましたところ、どうやら浜辺で近くの自衛隊員が腕自慢をしているという話が飛び込んでまいりました。「おう、見に行ってみよう」と強い人。一応チャックさんも漁師の仲間では、そのめっぽう強い親分には勝てないものの、近所の漁師を退け、その次に2位に着けていたそうですから大したもの。早速、親分と一緒に浜辺へ向かいまして見物をしていると、チョット気になったのか大きな体つきの自衛隊員が自信たっぷりに「どうですか?やってみませんか?」と来たもんでありました。親分は「近藤、やってみろ」。「えっ?」と言うと「大丈夫だよ。勝てるから」。ぞろぞろとついて来たアルバイト仲間が「やってみなよ」と無責任に言ったそうであります。親分、その他の大勢に背中を押され一戦交えるという羽目になったそうですが、自信は全く無し。「だって体つきが全然違うんだもん」。だそうで、でも今年からのチャックさんの座右の銘である「ダメもと」がそもそも昔からのポリシー、土俵に上がったのでありました。「よろしくお願いします。」ペコリと頭を下げると、「あぁ、どうぞどうぞ」と自衛隊員。手を合わせると大人と子供でリーチはチャックさんの肘が浮いてしまうほどだったそうであります。「こりゃぁ気を入れて掛からないとまずいな」。「じゃ、行きましょう?」と自信満々に自衛隊員。野次馬が掛け声をかける「いっち、にーのーさん」。その瞬間「バタン!」という音が。なんとチャックさんの手が上で勢いよく自衛隊員の腕をなぎ倒した音だったです。「アチャー、チョット気合を入れすぎたかな」と思ったそうです。親分は「な、勝てるって言ったろ」だって。チャックさんはあまりの圧勝に「すみません」と頭を下げてそこから逃げたそうです。

人は見掛けによらないとは言いますが、ちょっと傷つけちゃったのかな?しかも大勢の前で…悪気は無かったはずですので、どうぞお許しを。

楽しいこと、悲しいこと、やはり「愛こそすべて」かな?!

とにかく短い間ではあったけど、たくさんの経験をしたそうでチャックさんにとっては大きな想い出となっているそうです。その一つに犬との触れ合いもあったのでした。

「網元」で飼っているチョット気の荒い黒い大きな犬は、近寄る人間を威嚇したり、仲間も噛まれそうになったり、みんなには「怖い犬」という印象ですが何故かチャックさんにだけは懐いたそうであります。大きな声で吠えたりしてもチャックさんが「うるさいよお前」なんて言うと静かになったり、みんなが怖いと近寄らなくてもチャックさんにはおとなしく頭を撫でてもらったりと、チャックさんには「可愛い犬」だったそうです。ところが、とうとうお婆ちゃんの足を噛んでしまったのです。これには大騒ぎ。ついに「網元」は手に負えないからと言うことで、犬を保健所に連れて行くと言うことになった時、チャックさんにしか連れて行けないだろうということになったのでした。こんなことで仲良くしてたわけではなかったのに…。

連れて行く当日、怖がって誰も近づかない犬を迎えに行き、トラックの荷台に二人、いや一人と一匹で乗り保健所へ。その間もチャックさんの横で静かにしていたそうであります。そんな状態を周りの人たちは不思議がっていたそうですが、保健所が近づくにつれ、「この犬はどうなってしまうんだろう?」とチャックさんは切ない思いがしたそうであります。周りの人たちが必要以上に怖がらず、愛情を持って接していればこの犬だって威嚇したり噛み付いたりしなかったんじゃないかと、つくづく保健所行きがむなしく思えたそうです。この日から犬は帰ってくることは無かったそうです。どうしたんだろう?

今回は何となく悲しげな終わりになってしまいました。でもこんな日々も有ったのです。「人生楽しいことばかりじゃぁないんだよ。」「でも楽しいことばかりになるように心がける人生が良いね。」とチャックさん。次回は楽しい話が満載だと良いですね。おっ楽しみー!